仏像の材料
   
かや
   榧の木

 仏像の素材は、
   ① 石材 ・・・ お地蔵さん(地蔵菩薩)など。 高い石崖に彫った摩崖仏まがいぶつがあります。
            洞穴の石に仏像を彫ったものもあります。これを石窟寺院、あるいは単に石窟せっくつと言います。
   ② 粘土 ・・・ 粘土で像を造り、色を塗る。塑像そぞうと言います。
   ③ 布・紙 ・・・ 粘土で像を造り、その上に麻布か紙を漆で貼り重ね、その後、粘土を取り出したもの。乾漆像かんしつぞうと言います。
   ④ 金属 ・・・ 奈良東大寺の大仏さん(盧舎那仏るしゃなぶつ)は、型に銅を流し込んだものです。
   ⑤ 木材 ・・・ 古保利薬師の仏像は一木造りの仏像です。

 仏像は、中国から伝わりました。
 木像について、中国では白檀びゃくだんの木が用いられました。
 法隆寺の九面観音立像くめかんのんは唐から伝わった白檀の仏像です。
 白檀は熱帯の木です。
 日本にはないため、代用として楠木クスノキ、桧ヒノキ、欅ケヤキ、榧カヤなどが用いられました。
 
 白檀の木は、香りが良く、木肌が美しいので、木像に彩色や金箔を施さないものが多い。
 榧や桧も香りが良いので、彩色などしないものがあります。それを「檀像様」と言うことがあります。

 それでは、古保利薬師の仏像の素材は何の木でしょうか。
 諸説あります。
 昭和56年発行の『解説版 新指定重要文化財 彫刻 』 には、素材はすべて桧とあります。
 しかし、古保利薬師の仏像を長年、研究された三宅昭典の編著による『仏像の鑑賞』によると、
 薬師如来座像と千手観音立像は桧、
 日光菩薩立像、月光菩薩立像、十一面観音立像三躯、吉祥天立像、四天王立像四躯は榧の木とあります。
 一方では、薬師如来座像と千手観音立像も榧の木という説があります。
 古保利薬師を取り上げた数々の書物には、榧の木とするものが多いようです。
 古保利薬師の仏像を数度に亘って修理された、奈良市の仏師 白石義雄氏は榧の木と言われたそうです。


 ところで、榧の木とは、どんな木でしょうか。

   北広島町本地の西原さん宅の榧の木

  榧の木については、あまり知られていないようです。
  山仕事をされる方のお話では、山で小木や幼木を見かけるそうです。
  こまめに刈って、生垣にしている方もあります。
  成長が遅いそうです。写真の榧の木は、直径約1mですが、百年以上は経っているだろうとのお話です。
  宮島には大木があります。昔より、神社仏閣などに植えられたようです。

  榧の木とは、
    イチイ科カヤ属  常緑針葉樹  雌雄異株

  葉と種(アーモンドのような実)

  古保利薬師の境内に、榧の木と思われる幼木があります。
      保蔵庫の前庭の東側に直径5センチ       山際の法面に笹と同じ高さ

   

  詳しい方があれば、確認していただけないでしょうか。


 榧の木の特徴は、
  ① 白檀は固いが、榧の木は軟らかい。
      ・・・軟らかく弾力に富むので、碁石や将棋の駒が傷まないことから、碁盤や将棋盤に用いられます。
  ② 成長が遅いので年輪幅が狭く、年輪部分が目立たないため、緻密な工作が容易です。
  ③ 樹木には、固くなった心材と周りの軟らかい辺材があります。
      松などは心材が固いが、辺材は軟らかい。
      その点、榧はその差が小さいので、木材の全てが利用可能です。
  ④ 香りが良い。甘酸っぱい匂いがします。
      当館の展示室に、榧の木の「カンナの削りかす」を入れた容器を置いています。匂いを嗅ぐことができます。
      ・・・仏像が納められた当初は、部屋いっぱいに良い香りがしたことでしょう。

    榧の板とカンナ屑

  ⑤ 防虫効果がある。
     そのためでしょうか、仏像に虫食いの跡が見られません。
     ・・・枝や葉をくぐして(燃やして煙を出す)、蚊を追い払ったそうです。
       寝室に使う網状の「カヤ」の名前は「蚊遣かやり」からきたもので、榧に由来するという説があります。
  ⑥ 腐りにくく、年とともに風合いがよくなり、美しくなる。
      「古保利薬師の由来と仏像について」にありますように、多難な時代がありました。
     風雪に耐え、千年以上も保存できたのも、その木質のお陰と思われます。
     ・・・腐りにくいので、水回りの用材になります。
  ⑦ 大木になります。
     ・・・日本最大の榧の木は、福島県桑折町 万正寺の大カヤ
          樹高16.5m 幹周8.7m 推定900年
      京都の金剛院にも「千年ガヤ」と呼ばれる大木があります。
  ⑧ 実は食用になり、漢方薬として用いられます。
      サナダムシの駆除に使われたそうです。

 

 も仏像に使われましたが、やや難点があります。
  ① 縦に割れ易い。
     家屋の柱にする場合も、あらかじめ割れ目を入れます。
     割れを防ぐため、桧の仏像は、内部を刳り貫きます。
     これを、「内刳うちぐり」、あるいは「内刳りを施す」と言います。
   
     古保利薬師の薬師如来座像は内刳が施してあります。

  ② 時間が経つと年輪が浮き立つ


 仏像の材料についての諸説

 

  研究者 薬師如来  日光月光  千手観音  吉祥天  四天王 
 久野健(註1)  ヒノキ    カヤ   ヒノキ  カヤ    カヤ
 「新指定重要文化財3」(註2)  ヒノキ   ヒノキ   ヒノキ  ヒノキ   ヒノキ 
 斉藤孝(註3)   ヒノキ   ー   ー   ー  ヒノキ
           
           


註1 『平安初期彫刻史の研究』昭和49年刊
註2 『解説版・新指定重要文化財3』 「重要文化財」編纂委員会編・毎日新聞社・昭和56年刊
     参考・昭和37年2月2日文化財保護委員会告示第7号
註3 日本古寺美術全集18『山陰山陽の古寺』集英社昭和57年刊中の斉藤孝による図版解説


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